潰れた鼻に、意志の強そうな大きな瞳、固く結ばれた口元、「獅子犬」の名にふさわしい威厳のある顔立ちのペキニーズは、最近の短頭種ブームの中でも急上昇中のアジア犬です。
ペキニーズの祖先は、紀元前よりチベットの寺院で飼われていたチベタン・スパニエルと言われています。チベタン・スパニエルは、もともとチベットのラマ教寺院で番犬や僧侶を手伝う犬として飼育・繁殖されていましたが、ここから長毛のラサ・アプソやチベタン・テリアなども派生しています。これらの犬は法王ダライ・ラマによって周辺諸国に献上され、秦の始皇帝をはじめ中国の歴代皇帝にも贈られたとされています。中国ではさらに獅子(ライオンではなく、狛犬のような想像上の動物。仏の守護獣)に似た容貌に改良され、「獅子犬」と呼ばれるペキニーズとなりました。当時の中国では宮廷内でのみで飼育され、門外に出すことは固く禁じられており、皇帝は袖の中にペキニーズを入れて可愛がっていたそうです。皇帝が亡くなると、その柩を墓までペキニーズが先導したと伝えられています。1860年、アヘン戦争で中国が敗れると、西太后が飼っていた5頭のペキニーズはイギリス軍が持ち帰ることとなり、愛犬家で名高いビクトリア女王に献上されました。当初は、イギリス貴族の間のみで繁殖が行われていましたが、1893年にドッグショーに出場してからは一般に広まっていき、1906年にはアメリカのケンネルクラブにも登録されました。
体高は15~23センチの小型犬に分類されていますが、体重は5~5.4㎏と見た目よりもずっしりとしています。胴長短足で太くがっしりとした前足と、それよりやや細い後ろ足は外に開くように湾曲しており、その足を回しながら歩く独特のローリング歩行を行います。顔は大きく、左右に離れて垂れた耳からは長い毛が伸びています。前から見ると首回りのふさふさの毛がまさに獅子のようで、その堂々とした容貌は実際よりも大きく感じさせます。
ペキニーズの毛色はホワイト、レッド、シルバー、クリーム、ブラックなど様々な毛色がありますが、アルビノとレバーは認められていません。パーティーカラーと呼ばれる多色の毛色もありますが、日本でよく見られるのはホワイト(全身白)とフォーン・ブラックマスク(黄色味の強い茶色に顔周りが黒い)です。
直毛のダブルコートで、アンダーコートがとても多いので実際よりも体を大きく見せています。首回り、肢、しっぽ、指間にも豊かな飾り毛があり、換毛期には非常に多くの毛が抜けるため、毛玉を予防するためにも毎日のブラッシングは欠かせません。
「猫のような犬」と称されることが多く、激しく動き回ることもせず、マイペースで落ち着いています。基本的に大人しく、滅多に吠えない反面、やや頑固なところがあり、怖いもの知らずで、どんなときでも強気です。飼い主に対しては忠実ですが、プライドが非常に高く人から指図されたり、べたべたされたり抱っこされることは嫌いなので、しつけには時間がかかるかも知れません。運動量はさほど必要ではないので、家の中でゆっくりと絆を築いていきたい人に向いている犬種でしょう。
アンダーコートが多いうえに短頭種のため、夏の暑さには非常に弱く、すぐに鼻息が荒くなってしまうので、気温が高い日には必ずエアコンなどで室温管理をしましょう。
運動量はあまり多くないので肥満になりやすく、太ると背骨や手足の関節に負担がかかってしまうので、こまめに体重を測りながら食事の内容を決めましょう。また、鼻ペチャで、フードや水が顔のしわに入り込んで、皮膚炎の原因になりやすいので、食後には柔らかい布などで顔周りをきれいに拭き取るようにしましょう。
ペキニーズは性格的にも健康面でも決して飼いやすい犬ではありませんが、犬らしくない人に媚びない姿勢や独特の風貌が却って一部の人に熱烈に受け入れられ、今の人気につながっているようです。